近年、多くの人の注目を集めている『海洋散骨』。
海洋散骨とはその名のとおり海に遺骨をまくことですが、それが違法なのではないかと心配になりますよね。
もしも故人が海への散骨を強く望んでいたとしても違法であれば諦めなければなりません。
でもご安心ください、海洋散骨は違法じゃないですよ。
じつは、現在のところ海洋散骨に関する法律がないのです。
ただし、『自由に海へ散骨してよい』というわけではなく、散骨にあたりある程度のルールを守ることが求められます。
この記事では、
- 海洋散骨が違法ではない理由
- 海洋散骨をするときのルール
- 実際にある海洋散骨に関する条例
について紹介しています。
海洋散骨にまつわる法律やルールについて詳しく紹介していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
誰にも迷惑をかけず安心して海洋散骨ができるようになりますよ。
海洋散骨は違法じゃない
一般的に、亡くなった人の遺骨は、
- お墓に埋葬する
- 納骨堂に収蔵する
- 自宅で『手元供養』をする
といった方法で管理します。
しかし、海洋散骨はそのような管理をすることなく、遺骨を海にまいてしまいます。
そのため、遺骨を海にまくことを【遺棄】のように感じて「もしかして海洋散骨って違法なのかな?」と心配する人が多いのです。
でも、海洋散骨は違法じゃないですよ。
遺骨の取り扱いについては以下の、
- 墓地、埋葬等に関する法律第4条
- 刑法第190条
という法律にもとづいて考える必要があります。
墓地、埋葬等に関する法律第4条
遺骨の取り扱いについては、基本的に『墓地、埋葬等に関する法律』で定められています。
『墓地、埋葬等に関する法律』では、
「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地の区域以外に、これを行つてはならない。」
《参照》:墓地、埋葬等に関する法律第4条
と定められており、遺骨は【墓地の区域】以外には埋葬できないのです。
そうすると、海洋散骨をするためには、海が【墓地の区域】に該当するのかが問題です。
しかし、残念ながら海は【墓地の区域】に該当しません。
じゃあ、海に遺骨をまいたら違法だよね?
いいえ、海に遺骨をまいても違法ではありません。
『墓地、埋葬等に関する法律』で定めているのは《埋葬》や《焼骨の埋蔵》のことであり、散骨については定められていません。
まず、《埋葬》は【死者を土中にうずめ、ほうむること】を意味し、遺骨の埋葬だけではなく『土葬』も含まれます。
そして、《埋蔵》は【うずめ隠すこと】を意味し、《焼骨の埋蔵》というのは要するに墓地への『納骨』のことです。
しかし、海洋散骨の場合は、遺骨を土中に埋めたり墓地に納骨するのではなく、海にまきます。
そのため、海洋散骨には『墓地、埋葬等に関する法律』が適用されないのです。
適用される法律がないのですから、海洋散骨をしても違法にはなりません。
刑法第190条
遺骨について触れている法律には、もう1つ『刑法第190条』があります。
『刑法第190条』では、
「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の拘禁刑に処する。」
《参照》:刑法第190条
と定めています。
この法律では遺骨について「遺骨を壊したり捨てちゃいけません。」と言っているのです。
しかし、散骨をするときには必ず遺骨を細かく粉砕し、それから海へまきます。
だったら【粉砕】は『損壊』になって【散骨】は『遺棄』になるんじゃ?
いいえ、『弔(とむら)い』を目的とした散骨の場合、刑法190条は適用されません。
刑法第190条では、遺骨を捨てる(遺棄する)ことは【遺骨遺棄罪】という立派な犯罪になります。
しかし、亡くなった人を偲ぶための『弔い』として遺骨を海へまくのであれば遺骨遺棄罪に問われることはありません。
そもそも刑法第190条で遺骨を遺棄することを犯罪としたのは『社会的な習慣や伝統による宗教的感情を保護するため』とされています。
人々の《死者の尊厳を守り慈しむ宗教的感情》を保護するために、
- 死者を弔わずに放置する
- 死体を損壊する
- 納棺したものを壊す
といったような『死者に対する礼節を欠く行為』を犯罪とし、その一環として遺骨を捨てることも犯罪としたのです。
となれば、もし遺骨を粉砕したり海へまいたとしても、それが亡くなった人に対して礼節を欠くものではなく、弔いとして行われているのであれば犯罪にはなりません。
つまり、海洋散骨が社会的に『埋葬方法の1つ』として認められるものであれば遺骨遺棄罪にはならないのです。
また、平成2年に法務省刑事局は散骨について、
刑法第190条の規定は社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的だから、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ない。
という見解を示しています。
ですから、しっかりと節度をもって散骨が行われていれば法規制の対象外となるのです。
海洋散骨をするときのルール
海洋散骨は、しっかりと節度をもって行えば違法ではありません。
そして、節度をもって海洋散骨をするためには一定のルールが必要です。
海洋散骨をするときには、原則として下記のガイドラインに沿って行われています。
- 一般社団法人日本海洋散骨協会『日本海洋散骨協会ガイドライン』
- 厚生労働省『散骨に関するガイドライン』
これらのガイドラインをふまえた上で海洋散骨におけるルールとしては、
- 遺骨は細かく砕く
- 多くの人に見られる場所では散骨しない
- 環境に配慮する
- 漁業・観光業関係者に迷惑をかけない場所にまく
- 喪服は着ない
などがあります。
遺骨は細かく砕く
海洋散骨をする場合、遺骨は細かく砕くのがルールです。
具体的には《他の人が見て遺骨だと認識できない程度》まで遺骨を細かく砕く必要があります。
日本海洋散骨協会では、
加盟事業者は、海洋散骨を実施するにあたり、遺骨を遺骨と分からない程度(1mm~2mm程度)に粉末化しなければいけません。
としています。
遺骨を骨壺から出したままの状態で海にまくと、周辺の住民や漁業関係者がそれを見たとき、明らかに人骨をまいていることが分かり、それが原因でトラブルになる可能性があります。
また、粉骨されていなければ、その遺骨が【海洋散骨のための遺骨】なのか【ただ遺棄するための遺骨】なのかが分かりません。
もしも【ただ遺棄するための遺骨】とみなされた場合は遺骨遺棄罪が適用されてしまいます。
海洋散骨をするときは、遺骨をしっかりと《2mm以下まで砕く》ということを厳守する必要があります。
多くの人に見られる場所では散骨しない
海洋散骨をするなら、多くの人に見られる場所では散骨しないというのがルールです。
海洋散骨は少しずつ認知され始めましたが、それでもまだ【普及している】というレベルではありません。
ですから、もしも海洋散骨について理解していない人が散骨の現場を見たら、とても驚くのはもちろん、不快な思いをするでしょう。
そのため、海洋散骨をする場合は、
- フェリー船からまかない
- 橋の上からまかない
- 浜辺でまかない
- 船の航路となる場所でまかない
など、他の人への配慮が必要です。
このように、他の人とのトラブルを避けるというルールにおいて、必ずしも希望する場所に散骨できるわけではないことを理解しておきましょう。
環境に配慮する
海洋散骨では、しっかりと環境に配慮するのがルールです。
そのため、故人の希望があったとしても、
- 金属
- ガラス
- プラスチック
- ビニール
など自然に還らないものをまくことはできません。
また、海へ散骨をする際は、遺骨と一緒に供物をまきますが、供物の内容はある程度決まっています。
ほとんどの場合、海洋散骨の供物には、
- 花(花びら)
- 酒
- 水
を使用します。
遺骨と一緒に『故人が好きだった物』をまいてあげたいところですが、できるだけ海を汚さないために必要最低限のものだけをまくのです。
酒や水は液体なので、栓を開けたらそのまま海へまきます。
しかし、花をまくときは葉や茎がついたものではなく、できるだけ海への影響がないように『花びら』だけをまくのが一般的です。
海洋散骨をするときは、しっかりと環境に配慮する必要があるのです。
漁業・観光業関係者に迷惑をかけない場所にまく
海へ散骨するときは、漁業・観光業関係者に迷惑をかけない場所にまくのがルールです。
もしもルールを守らず海洋散骨をしてしまうと、場合によっては損害賠償請求をされてしまいます。
漁業関係者への配慮
海ではさまざまな漁が行われているので、漁場となるところで散骨をしたら漁業関係者とトラブルになります。
もちろん遺骨をまいたくらいでは海への影響はほとんどありませんが、その漁場で獲れた水産物に対する風評被害の出る恐れがあります。
人は物を購入するとき、その商品に対する『イメージ』が大きく影響します。
そのため、海洋散骨をしている漁場で獲れた水産物だと分かると、
- 『人骨を食べた魚』を食べるのがイヤだ
- その漁場で獲れた水産物には霊が取り憑いていそう
- その漁場全体が人骨の粉で汚れていそう
などのマイナスイメージを抱き、購入をしなくなるんですよね。
ですから、水産物などの風評被害がないように細心の注意を払い、漁業への影響が少ない場所で散骨を行う必要があります。
観光業関係者への配慮
海洋散骨をするときは、漁業関係者だけではなく、周辺の観光業関係者への配慮も忘れてはいけません。
海の近くには観光地や遊泳場があります。
観光客や遊泳客から見えるような場所で散骨をしていたら、観光業関係者とトラブルになるでしょう。
もしも、
『雲ひとつない青い空、目の前に広がる穏やかで青い海、そして船の上から白い粉をまき合掌をしている人』
・・・こんな場所だと、美しい景色や楽しい海水浴が台無しですよね。
そして、二度とその海には行かなくなるでしょう。
海には大勢の人が訪れますので、不快な思いをさせないように十分に注意しなくてはいけません。
《関連記事》:【海洋汚染が心配】海へ散骨すると環境に悪影響があるのか。
喪服は着ない
海洋散骨をするにあたり、喪服は着ないのがルールです。
船に乗るときに喪服を着ることなんてありませんよね。
ですから、喪服を着た人が船に乗っていたら「海洋散骨をするんだな。」と分かる人もいるので、海洋散骨をするときは、喪服ではなく平服の方がよいでしょう。
また、多くの人は喪服を見ると【人の死】を連想します。
じつは、海沿いにあるホテルで結婚披露宴をする人は多いのですが、そのような人たちが【喪服姿の人が乗っている船】を見たらどう思うでしょう?
お祝いの気分が、お悔やみの気分へと一変してしまいます。
喪服を着ることには《亡くなった人を偲ぶ》という大事な意味があるのですが、海洋散骨に限っては好ましくないのでヤメましょう。
海洋散骨に関する自治体の条例
海洋散骨は違法ではありませんが、一定のルールを守る必要があります。
散骨に対する考え方は自治体によって異なり、散骨に関する条例を定めている自治体があれば、何もルールを設けない自治体もあるのです。
散骨に関する条例を定めている自治体はいくつかありますが、ここでは『海への散骨』について定めている自治体の条例を紹介します。
静岡県熱海市
静岡県熱海市は、古くから国際観光温泉文化都市として発展してきました。
有名な観光都市として知られており、現在でも年間500万人が訪れていますが、温泉だけでなく、海産物や海水浴などの『海』の魅力を目的に来訪する人も多いです。
そのため、海洋散骨によって熱海市のブランドイメージが損なわれたり風評被害が生じないように厳しい条例が定められています。
ただし、条例が対象としてるのは散骨事業者であり、個人は対象になりません。
熱海市の条例では散骨事業者に対し以下のように定めています。
- 熱海市内の土地(初島含む)から10キロメートル以上離れた海域で行うこと。
- 海水浴やマリンレジャーのお客様の多い夏期における海洋散骨は控えること。
- 焼骨をパウダー状にし、飛散させないため水溶性の袋へ入れて海面へ投下すること。
- 環境保全のため自然に還らないもの(金属、ビニール、プラスチック、ガラスその他の人工物)を撒かないこと。
- 事業を宣伝・広報する際に「熱海沖」、「初島沖」など「熱海」を連想する文言を使用しないこと。
陸から10キロメートル離れることや、夏期の散骨は控えることなど、海の観光地としてのブランドイメージを保護することを重要視するような内容となっています。
静岡県伊東市
静岡県伊東市は、熱海市と同様に国際観光温泉文化都市として発展した場所です。
そのため、自然景観の美しさだけではなく、温泉や魚介類、海水浴、スキューバダイビングなど『海』の魅力を目的に来訪する人が多いです。
伊東市の条例では、適用の対範囲が『海洋散骨を行う者及び事業者』なので、散骨事業者だけでなく個人も対象となっています。
伊東市の条例では海洋散骨に対し以下のように定められています。
- 伊東市の陸地から6海里(約11.11km)以内の海域で散骨しないこと。
- 環境保全のため自然に還らないもの(金属、ビニール、プラスチック、ガラスその他の人工物)をまかないこと。
- 宣伝・広報に関し、「伊東沖」、「伊東市の地名」など、「伊東」を連想する文言を使用しないこと。
やはり、伊東市の場合も、陸から約11km以上離れることなど『来訪客から散骨の様子が見えないようにする』ということを重要視しています。
海洋散骨には国の定める法規制がありませんが、散骨を行うことによって大勢の人への影響があるため、散骨をする側にしっかりとマナーを守ることが求められるのです。
まとめ
海洋散骨をしたいと思っていても「もしかすると海洋散骨は違法なのではないか?」と心配する人は多いです。
しかし、海洋散骨は違法じゃないのでご安心ください。
遺骨に関する法律には『墓地、埋葬等に関する法律』と『刑法第190条』がありますが、
- 遺骨を2mm以下まで粉砕する
- 『弔い』として節度をもって散骨する
などを守っていれば海へ散骨することができます。
ただし、自治体によっては海洋散骨に関する条例がありますので、散骨をするときは各自治体の条例を確認しておきましょう。
海洋散骨は一定のルールを守っていれば違法にはならないので、安心して遺骨を海へ還してあげてください。
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