
海にまいた遺骨は、どれくらいしたら消えますか?



遺骨や海の条件によって違いますが、10以上年かかる場合もありますよ。
近年では故人の希望などで『海洋散骨』をしたいという人が急増中です。
でも、海洋散骨に興味があっても、遺骨がどのくらい海中に残っているのか気になりますよね。
海中の遺骨が消滅するまでの期間は、海へまいたときの条件で大きく異なります。
本記事では、【海洋散骨でまいた遺骨がどのくらいで消滅するのか】について解説しています。
海洋散骨による海への影響が心配な人は最後まで読んでみてください。
この記事を書いている私『ちょっき』は僧侶になって25年です。僧侶としての経験や視点をふまえて海洋散骨に関する情報を発信しています。
海洋散骨した遺骨が自然に消滅するまでの期間
海洋散骨した遺骨が自然に消滅するまでには、だいたい【1年~10年】の期間が必要とされています。
遺骨が消滅するまでには《散骨した環境》が大きく影響するので、
- まいた場所
- まいた季節
などによって消滅までの期間が大きく変わります。
まいた場所が、水温が高くて潮の流れも速くて、さらに微生物などが多いところなら、遺骨は早く消滅するでしょう。
しかし、海は常に同じ環境ではありません。
季節によっては、水温、潮の流れ、存在する微生物が変わるため、遺骨が消滅する早さも違います。
また、環境以外にも『粉骨の細かさ』などの影響もあるので、遺骨が海中で消滅するまでの時間は本当にまちまちなのです。
人骨の成分
海中で人骨が消滅するまでの期間を理解するためには【人骨の成分】を知っておく必要があります。
人骨の成分は、主に、
- リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)
- 有機物(コラーゲンなど)
- 水分
などです。
これが、火葬された遺骨になると、ほとんど《リン酸カルシウム》だけが残ります。
そして、この《リン酸カルシウム》というのは通常の海水では溶けにくいんですよね。
もちろん、長い時間をかければ少しずつ海中に溶けていくので、いずれは消滅します。
しかし、遺骨が【海水に溶けにくい性質】であることを理解し、適切に散骨をしないとトラブルを招く可能性があるので注意しましょう。
海洋散骨をするには粉骨しなきゃいけないの?
海洋散骨をするときには必ず『粉骨』をします。
散骨するときに遺骨をしっかりと砕くのは、
- 【社会的な習慣】のもとに散骨していることを示す
- 周辺の住民や漁業関係者への配慮
- 海中環境の負担を減らす
- 海の生態系への影響を減らす
という理由からです。
【社会的な習慣】のもとに散骨していることを示す
海洋散骨をするときに粉骨をするのは、【社会的な習慣】のもとに散骨していることを示す意味があります。
刑法第190条では、遺骨を捨てる(遺棄する)ことは【遺骨遺棄罪】という立派な犯罪になります。
しかし、亡くなった人を偲ぶための『弔い』として遺骨を海へまくのであれば遺骨遺棄罪に問われることはありません。
じつは、遺骨を遺棄することを犯罪としたのは『社会的な習慣や伝統による宗教的感情を保護するため』とされています。
ですから、社会的な習慣のもとで弔いが行われているのであれば、遺骨を海へまいても犯罪にはならないのです。
そして、社会的な習慣として行う海洋散骨では『遺骨を細かく砕くこと』が必須となっています。
そのため、しっかりと節度をもって法的に問題なく散骨が行われていることを示すために散骨をするのです。
《関連記事》:海洋散骨は違法じゃない。散骨のルールや自治体の条例を紹介
周辺の住民や漁業関係者への配慮
海洋散骨で粉骨をするのは、周辺の住民や漁業関係者へ配慮する意味があります。
海洋散骨において粉骨をするのは必須です。
具体的には【他の人が見て遺骨だと認識できない程度】まで遺骨を細かく砕く必要があります。
日本海洋散骨協会では、
加盟事業者は、海洋散骨を実施するにあたり、遺骨を遺骨と分からない程度(1mm~2mm程度)に粉末化しなければいけません。
としています。
遺骨を砕かずに海へまくと、周辺の住民や漁業関係者がそれを見たとき、明らかに人骨をまいていることが分かりトラブルになる可能性があります。
また、粉骨されていなければ、その遺骨が【海洋散骨のための遺骨】なのか【ただ遺棄するための遺骨】なのか分かりません。
もしも【ただ遺棄するための遺骨】とみなされた場合は遺骨遺棄罪が適用されてしまいます。
ですから、周辺の住民や漁業関係者への配慮のため、そして違法性がないことを示すためにも、海洋散骨をするときは遺骨をしっかりと2mm以下まで砕くのです。
海中環境の負担を減らす
遺骨を砕いてから海へまくのは、海中環境の負担を減らすためでもあります。
人骨というのは、自然環境下で分解されるまでにはとても長い年月が必要です。
そのため、砕かれていない大きな骨片は、海底に長期間残ってしまいます。
すると、繊細な環境に生息する生物にとっての《大事な生息場所》を破壊したり、自然の循環を妨げてしまう可能性があるのです。
しかし、細かく粉骨して海水との接触面積を増やせば海中に溶けやすくなるため、早く自然環境に還ることができます。
また、細かく砕かれた遺骨は潮流によって拡散されるので、1つの場所に長期間残ることがないんですよね。
このように、粉骨することにより海中環境の負担を減らしているのです。
海の生態系への影響を減らすため
海洋散骨で粉骨をすることは、海の生態系への影響を減らすためにも非常に大事です。
大きな骨片がたくさん特定の場所に残り続けると、その周辺は一時的に《人骨の成分の濃度》が高まってしまいます。
急激に成分濃度が変化すると、特定の微生物や藻類などの異常繁殖を引き起こす可能性もあるんです。
それは結果的に海の生態系のバランスを崩すことになります。
しかし、粉骨をすれば遺骨が広範囲に拡散されて、局地的な生態系への影響を避けられます。
粉骨をすることは、自然のバランスをしっかり守る意味でも重要なのです。
遺骨が海中で消滅するまでの過程
ここで、海にまいた遺骨が消滅するまでの過程を簡単に紹介します。
拡散と沈降
海へ遺骨をまくと、潮流にのって拡散していきます。
2mm以下まで細かく砕かれた遺骨はゆっくりと海中を漂い、広がりながら徐々に沈んでいきます。
近年では、遺骨を【パウダー状】になるまで砕くことが多いので、潮流の速いところだと数キロ先まで拡散することもあるんです。
摩耗
海底に沈んだ粉骨は、潮流や波に流されながら、海底の砂や岩などにぶつかり摩耗していきます。
これにより、粉骨はさらに細かい粒子に砕かれていきます。
溶解
遺骨の主成分である『リン酸カルシウム』は、海中に長時間さらされることで少しずつ溶解をしていきます。
遺骨がたどり着いた海底の土壌によっては、《酸性》が強ければさらに溶解が進みやすくなります。
溶解された遺骨は、最終的にリン酸イオンとカルシウムイオンに解離し、自然の中に還っていくんです。
生物による吸収
溶解された遺骨は、微生物や海底の生物によって取り込まれます。
また、遺骨の成分であったカルシウムやリンは、海底にある珊瑚や貝殻などの形成に再利用されます。
このように、遺骨は最終的には生物に吸収され、自然の生態系に還っていくのです。
完全消滅
海にまかれた遺骨は、海中を漂い、海底に到着し、最終的に生態系へと還っていきます。
このような過程を経て、遺骨が完全に消滅するまでの期間は、条件によって大きく変わりますが、だいたい【1年~10年】といわれています。
ちなみに、完全に消滅するといっても、遺骨の存在が【ゼロ】になってしまうのではありません。
ゼロになるわけではなく、化学的には、生まれる前のように再び【自然と同一化された】とみなします。
遺骨の消滅までに影響するもの
海にまいた遺骨は、その条件によって消滅するまでの期間に大きく影響します。
水温
遺骨が消滅するまでには【水温】が影響します。
水温が高いほど海中の微生物の動きが活発になり、水温が高いほど溶解スピードが速くなります。
例えば、海水温度が『25℃~30℃』のような熱帯海域では溶解スピードが最も速いです。
逆に、水温が『5℃~20℃』のような寒帯・温帯の海域では微生物の活動が鈍く、溶解スピードが遅いため、消滅までの時間もかかります。
【潮や波】の速さ
遺骨の消滅までには【潮や波】の速さも大きく影響します。
沿岸部では潮や波の速さは遅いですが、外洋まで出ると速くなります。
潮や波が速ければ、それだけ遺骨が摩耗して粉砕されやすくなり、その結果、細かくなった分だけ溶解のスピードも速くなるのです。
生態系の豊かさ
遺骨の消滅までには【生態系の豊かさ】も影響します。
遺骨の流れ着いた海底にたくさんの微生物や小動物が生息していれば、それだけ遺骨が取り込まれやすくなります。
たくさんの生物に取り込まれることで、遺骨が早く分解されますので、豊かな生態系の中にある方が早く自然に還るのです。
まとめ
海洋散骨でまいた遺骨は、条件によって大きく異なりますが、だいたい【1年~10年】で消滅します。
遺骨を海へまくときは必ず粉骨する必要があり、これをしないと犯罪になるので注意してください。
本記事では、【海洋散骨でまいた遺骨はどのくらいで消えるのか】について解説してきました。
しかし、海へまかれた遺骨は、消滅するというよりも、生まれる前のように再び【自然と同一化された】のです。
海洋散骨は、故人の遺骨を自然の生命循環に再び加えるという、大事な儀式でもあります。
もしかすると、遺骨は人工的にお墓へ納めるのではなく、ちゃんと自然に戻してあげることが本当あるべき姿なのかもしれませんね。
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